『地頭力』はフェルミ推定で量れるか

最近の就職活動では、新採用者に対して『地頭力(じあたまりょく)』というものが求められている、ということが先日ニュースで取り上げられていました。何でもこの地頭力というのは、大企業病に苦しむ日本社会において持続的な発展を維持するためのキーとなるもので、無から有を生み出す創造性のことを言っているらしいです。『無から有』を生み出すためには、何でも知識や経験を取り除いた部分での賢さ、つまり生の頭『地頭』の良さがモノをいうそうです。
番組を見ていてかなりひっかかる部分がありましたので、その感想を残しておこうと思います。

『地頭力』の言葉の定義はさておいて、この『地頭力』を審査するひとつの方法として取り上げられていたのが、フェルミ推定という方法です。例をあげるなら『富士山をどうやって動かしますか』という課題に対して、『トラックで動かす、そのためにはトラック一台の大きさは大体2 x 3 x 6mだから、1台で土砂36m^3が運べて、富士山は大体底辺半径20km、高さ4000mの円錐だから体積は(hoge)m^3で、割り算すると(hoge)台分で…』という仮説に支えられた論理的思考ができれば合格だそうです。

しかし待ってください。これで本当に創造性というのが推し量れるのでしょうか? 僕はまったくそう思いません。おそらくこの『フェルミ推定』が身近すぎて、これはできて当たり前、『地頭力』によって得られるはずの創造力それ以前の問題ではないか、と感じてしまったのが正直なところです。

このサイトを見られている方の大半は、理系、文系というくくりをあえてするなら、理系であると思いますが、皆さん少なくとも『オーダー』という考え方をしたことはあると思います。例えば、ここのセンサの感度はだいたい1mV(p-p)程度だから、あのコンパレータを駆動するには1V程度の電圧が必要なので、ゲインはだいたい10^3くらいかな、といったことです。つまり数字の大小を感覚として感じ取ることに他ならないのですが、これはまさに『フェルミ推定』に他ならないと思います。

この『オーダー』を正しくつかむためには、当然知識や経験が必要不可欠です。特に経験は重要で、何度も失敗しないと身につかないものです。優秀で経験豊かなエンジニアが示す数字が、計算機がたたき出す数字と等しい、はたまたそれよりも優れているということはよくある話ですが、果たしてそういった感覚は『地頭力』によって成しうる創造性、独創的な問題を設定し解を導く力、によるものなのでしょうか? 創造力というのが知識や経験と切っても切り離せない関係にある、つまり『地頭力』の存在自体怪しい、とは僕の意見ですが、それにしてもこのフェルミ推定で『地頭力』を量るのは筋違いでないかと思います。

そういえば僕の先輩で、彼女に求める3つの条件が『オーダーがわかること』、『遊園地にあるフリーフォールを見て(2gh)^{0.5}』、『omega^{3}=1がわかる』だった方がいます。それと照らし合わせて考えると、『地頭力』をフェルミ推定で量ろうとしているのは、単に理系が得意とする論理的思考ができることを求めているだけなのではないでしょうか。論理的思考は概して解の多様性と相容れない部分があるので、『地頭力』による創造にあふれた世界の真逆、益々つまらない社会になってしまうのではないかと心配です。

April 06, 2008 23:59 fenrir が投稿 : 固定リンク | | このエントリーを含むはてなブックマーク

コメント

はい文系です(笑)

土木屋的にはスケール効果をオミットしちゃっていいんかな~っちうギモンがアタマを掠めたりします。
スケール効果というのはある意味我々の無知をさらけ出してるだけなんですが、土木屋の設計にはスケール効果の項がどうしても入ってきちゃうんですよね。はい。

Posted by: あおき : April 7, 2008 06:58 PM

>あおきさん
分類は『文系(笑)』であっていますよね?(笑)
スケール効果まで考慮して常人と別の考え方ができるようなら、それは素晴らしい発見に繋がるという解釈でよいでしょうか。例えば飛行機と昆虫とでは飛ぶ原理が全く違う、というのはなかなか理解しがたいことですが、昆虫の飛行にこそ人類の新たな活路があるのかもしれません。

Posted by: fenrir : April 8, 2008 01:12 AM

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