July 21, 2007

コンデンサ逆接に対する一考

いちおう僕は航空宇宙産業の端くれなので、打ち上げ前の問題発覚により、問題が解決し人工衛星打ち上げの成功率を高められたことは非常に良いことであると思います。スケジュールどおりいかず、延期になったことについては残念に思いますが。

『かぐや(SELENE)の打上げ延期について』
他衛星(超高速インターネット衛星WINDS)の地上試験を進めている中で、コンデンサの極性が逆に取り付けられていることが発見された。
このため、「かぐや」(SELENE)において同様の問題がないか調査を行ったところ、子衛星に使用しているコンデンサの2個で同様の問題があることが判明したため、当該部品の交換を行うこととした。

しかし、コンデンサの逆接という程度の低い問題に足を絡めとられたと思うと非常に心が痛みます。これがもし人工衛星ではなく民生品でしたら、即リコールの対象になっていることでしょう。
少しでも電気の知識があるのなら、この行為がいかに危険なことであるかは簡単に理解できます。なぜなら、逆につないだコンデンサは発火します。僕も何度かやりました。幸い目撃者がいなく事故扱いされることなく済みましたが(笑)。

ところで、このような程度の低い単純なミスを早期に予防することはできなかったのでしょうか。
航空宇宙製品は長期間の運用を前提とした信頼や安全を最重視したシステムがほとんどであり、少なくとも慎重に設計、製作が行われています。人工衛星の製作に至っては空気が十分に浄化されたクリーンルームで行われており、まさにこれ以上ない環境で製造される精密機器といっても過言ではないでしょう。
最高の条件下でおきた些細なミス。よくある話で、結局のところ環境に介在した要素、すなわちヒューマンファクターこそ今回のミスの原因ではないでしょうか。つまるところ、このミスを犯した人間に、コンデンサの逆接がいかに危険なものであるか、という認識が十分にあれば、このミスを早期に予防できた可能性が高いと考えています。

しかしながら、そのような電気に関する認識を体得できる土壌が、航空宇宙産業には十分に成熟していないように思われます。
システムが大規模化すると、もはや純粋な機構的なハードだけでは対応できず、電気による制御が必要になることはいうまでもありません。一番身近な例は自動車で、もはや中身はマイコンだらけ。近年自動車は排ガス規制などの外圧もあり、電気によるエンジン制御なくしては成立しないという状況に追い込まれた結果です。
一方、航空宇宙機器についても、近年システムが飛躍的に複雑化し、自動車などと同じように電気の力を導入せざるを得なくなりました。しかしながら排ガス規制のような社会的、緊急的要請がないために、電気の部分の対する取り組みは他産業に比べて緩やかであると思います。航空機の話について言えば、陀面の制御が電気的(フライバイワイヤ)であっても、動力は応答性や小型化に優れた電気モーターではなく、実績がある油圧で行っていることがほとんどです。また産業全体に流れる空気として、その古くを燃焼や空力、材力といった機構的なハードに端を発しているので、それをドライブする電気機械は興味の対象外である人が多いようです。

この考察を掘り下げ、以下、身の周りの現状に基づいて、人数と人材育成という側面に最も問題があるのではないかと考えています。

まず人数について。将来確実に航空宇宙産業の中枢を担うであろう人が身の回りにいるので、その人たちを観察してみましたが、電気に関する知識をもっている人の絶対数がとても足りないように思われます。
例として適正かどうかは検討の余地が大いにあるところですが、現在僕が所属している航空機の制御の研究を行う某集団では、全体30人弱の中で電気のことをある程度理解している(コンデンサの逆接が危険だとわかるレベル、あるいは実際に燃やしてしまったことがある)のは、僕を含めて2~3人といったレベルです。もう少し大きな枠で見ても、電気関係の知識が蓄積されている組織というのは某小型衛星をやっているところぐらいではないでしょうか。
とにかく電気に対する認識を持った人数が足りない、これが今回のミスの間接的な要因であると思われます。

人材育成という観点からは、電気に対する認識を持った人材を育てるのが難しいということが挙げられると思います。なんといっても電気的な現象は目で見えません。ある意味、勘と経験が頼りといっても過言ではなく、取得者自身にある程度のセンスが求められるのではないか、というのを、最近個人的経験から感じています。
技術者はπ型を目指すべきだということがよく言われているようです。π型とは、複数の専門知識とそれに付随する広く浅い横断的な知識を図形的に表した形です。今回のような専門家でなくともわかるミスを防ぐためには、集団の構成員全員がこれを問題として取り扱うことが重要であり、そのために構成員が広範囲な知識の一貫として電気を習得するのが、最も効果的であることは間違いないでしょう。しかし広範囲な知識として、電気(やそれに付随するIT)は機構的なハードからは一線を画した離れた場所にあるわけで、おいそれと手を出せるほど習得が容易ではないような気がします。これを乗り越えていくには本人の意欲しかないのではないでしょうか。
まとめると今回の問題の背景には、構成員が電気的な認識に対するコンセンサスを持つのが難しいという現状があったと思われます。

要するに何が言いたいかというと、航空宇宙に関わる人、電気は面白いので、もっと興味を持ってくださいということです(笑)。

※色々と個人的に調べた結果、上の記事は第一報を聞いたときの僕の主観に基づいて書かれていることが明らかとなりました。事実かどうであるかは、各人が知りうる確からしい情報を元にご判断ください。

23:19 fenrir が投稿 : 固定リンク | | このエントリーを含むはてなブックマーク | この記事をdel.icio.usでブックマーク | トラックバック
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コメント

打ち上げが延期になるのは残念ですが(GOSATの打ち上げが延期になるのはいいんですけど(笑))、打ち上げ前で本当によかったです。

飛行機やるんだって艤装は必要なんだし、航空宇宙工学科の学生にも電気の知識は必要だろうとは思うのですが(あの学生電気実験を見る限り、なんと手を抜いているのかと思いますけど)、時間的に難しいんでしょうね。

人材育成という面で見ると、以下に知識を残すか、というのがひとつのポイントになってくると思います。特に3年くらいでいなくなってしまう学生ならなおさらです。
ある一人の人が電気に詳しくなっても、それが継承できていないとステップアップできないどころか、レベルが退化してしまいます。

fenrirさんの研究室ではなにかこのあたりについて
気をつけているところなどありますか?

Posted by: yoschi : July 22, 2007 08:43 PM

>yoschiさん
思うに大学で技術の伝承は、やはり無理ではないでしょうか。人のローテーションは言われるようにめちゃ早いですし、皆さん非常に泥臭い作業を嫌がるので経験値を稼ぐこと自体難しいと思います。
ところで僕のいる研究室は少数精鋭主義(人材不足ともいう、笑)なので、見込みがある子を徹底的に鍛えようと考えています。失敗を恐れず、外圧を気にしない(実験系では、なかなか費やした時間と成果が比例しないので周囲の視線が、笑)のが第一条件ですね。

Posted by: fenrir : July 24, 2007 10:21 PM

比較的,私のところは技術の継承はスムーズにできていると考えています.ボスがこの辺りの重要性を理解している点と教育及びアフタケアの賜ですけど...

しかし,B4からM1の進学の際に研究室のシャッフル及び,グループのリーダが交替する時期には,せっかく育ってきた人材が流出(少し大袈裟かも!?)する寂しさを感じますし,また,実験のトラブルも頻発します.

文科省の方針では,教職員,学生の流動化を進めると言っていますが,実験系の研究室では大打撃を受けるのではないでしょうか?実験系の研究室では技術の継承及び蓄積は永遠の課題だと考えています.

それでは.

Posted by: Ya10 : July 27, 2007 05:35 AM

>Ya10さん
『教職員、学生の流動化』とは恐ろしいですね。実験に基づいた結果を出すためには、大なり小なり『匠の世界』があることを忘れないでもらいたいものですが、"偉い人"はわからんのですかね…

Posted by: fenrir : July 28, 2007 09:11 PM

始めまして。貴ブログはだいぶ以前から楽しく拝見していました。
私も機械屋 兼 電気屋 兼 ヘタレプログラマ 兼 山屋として、Fenrirさんのご活躍を羨ましく感じております。

さて、このエントリーで特にコメントしたくなったのには訳がありまして、私の遠い過去が思い出されたからです。
今では弱小ロボット会社で禄を食んでおりますが、その前20数年は自動車レース業界でレーシングエンジンを専門にやっておりました。書かれておられるような電子制御化の波がギョーカイに押し寄せたのは1985年前後であったと記憶します。
それまで生粋の機械屋で、ガチャガチャ動く物にしか興味が無く、やって来た波は災難の如く感じたものです。それでも否応無く押し流されて5年ほどすると、今度は急に楽しく興味深い事に変化していました。
きっかけとして思い出すのは、非常にエンジン屋にスリ寄ったECUを知った事です。オーストラリア製なんですが、聞けば社長はエンジン屋、プログラムは書けない人なんだそうです。
そういった「何か」が必要なんじゃないでしょうかね。サーボ一個、簡単なシリアル変換機、簡単なVBコードが有ればロボットになってしまいます。機械屋は機械が動けば楽しみます。何かオモチャを与えてみては如何でしょうか。(^^)
突然乱入して長々と申し訳ありませんでした。また楽しみにしております。

Posted by: Koji : August 2, 2007 02:51 PM

>Kojiさん
はじめまして、また愛読くださってありがとうございます。
プログラムの入門がHello Worldであったり、マイコンの新人研修がLEDピカピカであるのは、以後に続く伏線があってこそ重要となってくるわけですが、やはりご指摘のとおり色々な人に興味を持ってもらうためには、その先の面白い部分を先に知ってもらうことが重要であると思います。
実は、僕もプログラムはゲームを作りたい(当時はDOS)という誰でも思いつきそうなきっかけから始めたのですが、未だにゲームプログラミングをしたことはない(笑)ながら、ここまでこれたのは当時のモチベーションを維持することができたからだと思っています。

Posted by: fenrir : August 3, 2007 03:46 AM

関係者です。学生さんということで、何も知らないようですが今回ミスった人間はコンデンサの知識も含めてあなたが理想とする電気のプロです。
現状の航空宇宙産業を学内の研究室のイメージで語られても迷惑な話です。電子機器のプロジェクトにおいては、皆電子部品のエキスパート、及び主要大手電子機器メーカから出向している精鋭部隊で成り立っています。それでも問題は起きるのです。
今回の件も詳しくは書けませんが、単純に君が付け間違えたようなものではありません。
あまり関係者ぶって適当なこと書かないでください。
こんなとこで知ったかぶってないで勉強しなさい。

最後にこの場を借りてここを閲覧している、近い将来宇宙産業界を目指している人たちに伝えます。
この管理者の方みたいによく調べもしないで憶測で話を進めてしまう人間が、宇宙を含め工業界では一番敬遠されます。
何故一見学生でも批判したくなるような問題を、業界のプロが犯してしまったのか? 勝手な論理で批判する前に、事実を確認していく姿勢が必要です。
みなさん、期待してますよ!!

Posted by: adaxxx : October 13, 2007 03:44 AM

>adaxxxさん
ご指摘ありがとうございます。公開されている情報から判断する限りではそのような結論になってしまってもしょうがないのでは、というのが私の意見です。あえてこのようなご批判を覚悟でこの記事は書きました。個人的に知りえた情報を元に記事を書くと信用問題に関わりますので…。

Posted by: fenrir : October 15, 2007 09:33 AM
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